第30章 兄
アルバム<夏恋花>のRecordingに勤しんでいる頃、最愛の兄は肺がんから骨転移..
緩和ケアに入り死の淵を彷徨っていました。
あるプロデューサーの方から、沖縄にもの凄く当たる占い師がいると伺って、観光がてら訪ねてみる事にしました。
占い師さんに兄の事を見てもらうと、直ぐさま花の供えられていない祭壇の絵を描き「こんな感じが見える」と一言。「花が供えられた時にはもうダメだね。」
それだけ切羽詰まった状態だと示しました。わかってはいたけどショックでした。
そしてついでに私の事も聞いてみると、
「こういう所に来るアーティストとしてはなかなか珍しいタイプだね。君はどちらかというと“月”。一発ブレイクするような太陽ではないけど、月のように穏やかに長く人の心に残るタイプ」
そして驚いた事に「みんなの歌とか合ってるんじゃない?」と、、、
そんな事一言も言っていないのに、先に言われて本当にびっくりしました。
自分の事に関しては、今置かれている状況が間違っていないんだと確信し、また兄の事も もうどうしようもないのかもしれないと言い聞かせて、私は出来る限り空き時間は兄の元へと通うようになりました。
こんなに一緒の時間を過ごせたのは何十年ぶりでしょう、、
ちょっぴりガンコでマイペースだった兄が次第に少年のように子供のように顔つきごと優しくなっていくのです。きっと自分の死期を感じていたのでしょう。
暑い夏の終わりに51歳の若さで天国へ旅立ちました。
しばらくはその死を受け入れられず携帯に残る留守電の声を聞いては泣いていました。
「順ちゃん、仕事頑張って!」
これが私の聞いた兄の最後の言葉でした。
私の曲や歌をいつも評価してくれていた兄。早すぎです。
最愛の父と兄を亡くしたどうにもならない思いは、二人の死を一つの楽曲にする事で少しずつ癒えていきました。
この時ほど曲が書ける人で良かったと思ったことはありません。
そうでなかったらこの悲しみの淵に今もぶら下がっていたかもしれません。
<楽園の雪> (夏恋花 Mー10)
深々雪が舞う 夢の中を迎えに来る
遠く旅したね 凍えそうな闇の中
深々静けさに洗われて行く 身も心も
解き放された迷路に今 花を添えて
暖かい腕の中 守り続けたものが
今にも消えそうで 繋いだその手を 離せない
限りある命だと 知って振り返る日々
いくつの過ちといくつもの罪を 数えただろう
そして優しくなれる あまりに早すぎたと
最後の冬を逝くさざんかのように 散ってゆく
深々雪が舞う 夢の中を迎え来る
遠く旅したね たどり着いた楽園 楽園、、、
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