広谷順子｜うららかなる時のなごり

第35章幻世

2006年7月23日　ライブのタイトルは当然のごとく　＜第三帖　うららか＞

うららかと聞いて真っ先に思い出したのは、子供の頃藤棚の下に溢れる陽の光だったので、ステージにはたくさんの藤の花を飾りました。
実はこの大量の藤の花は、私が通っていたスポーツジムのロビーに飾られていたもので、どうしてもステージで使いたいとオーナーに掛け合い、貸していただいたのです。
自分でも驚くほどの行動力でした。

そして「うららか」を含む、New Album＜幻世＞を制作。
あの世とこの世の狭間の世界、幻の世と言う意味。そのまんまです。(笑)
その世界を描いていただいた、イラストレーター山口古穂さんの和紙によるアルバムジャケットも、＜悠久の翼＞に続いて２作目。
三つ折りの歌詞カードを開くと、その美しい絵画の全貌が現れ、それこそ額に入れて飾りたくなるほど美しいものとなっています。
古穂さんの和紙によるジャケット制作は、2013年リリースの＜帰去来＞で３部作のようになりました。
一貫した綺羅のイメージを視覚的に表現していただけて毎回とても嬉しい感動でした。

今やネット配信でジャケットなど必要なくなってしまったのかもしれませんが、昔はジャケ買いと言う言葉があったほどアーティストはジャケットにこだわっていた時代がありました。私達もその世代。
あくまでも美しいジャケットにこだわってみたのです。

＜この世の花＞　（幻世　M−3）
夜更けの海に映る　ひとすじの月の道　波に揺れて誘う天つ空
水に刻む　時の波紋　喜び悲しみ心引き寄せる
どんな風に生きればいい　答えをゆだねて闇は遠のく

まだ見ぬ風の色に　優しく手を翳して　名もなき花にも光を注いで行こう
ただ清らかなままで　この世の花になって　永久に眠る　微笑みに包まれて

そぼ降る雨　身を切るような　途絶えぬ孤独に震える瞳よ
どこにいても　離れてても　無償の愛で守り続けよう

だから空を仰いで　優しく手を合わせて　散りゆく花にも命を注いで行こう
やがて時は流れて　この世の花を抱いて　永久に眠る安らぎに包まれて

これはライブのリハ合宿へ向かう車の中、熱海の海に差し込んが月の光が
あまりにも美しく心奪われた事が脳裏から離れず書き綴った曲です。

＜月のふね＞　（幻世　M−5）
闇にはぐれた影法師　十六夜月を待つのやら
森のとばりに包まれて　月のうさぎが舞い降りる　　ひと夜限りの夢語り

星の数ほどの蛍火に　我を忘れてたわむるる
山の端映す水鏡　月なき空は寂しいと　　うさぎが夜を仰ぎ見る

風は静まり聞こえくる　眠れぬ森の子守唄
望まれし身のめでたさに　うさぎが空へ帰ります　　迎え来ますは月のふね

月には兎がいる。子供の頃からずっとそう思って来ました。
今でも月を見上げる度に兎を探します。
そんな兎が自分の居場所から逃げてしまったら、、

＜無情の風＞　（幻世　M−7）
暮れ始めた空のしめやかさに　涙が止めどなく溢れ落ちてく
愚かな争いに無くした日々　この手で何度でも描き続ける

なぜいたずらに傷つけ合う　暮れ惑う風　嵐を呼び無情に切り裂く
花びら舞い上がれ　うずまく悲しみも
美しき幻想だと　胸に刻み込む日まで

ただ一度だけ旅を続け　遺したものが　嵐を呼び無情に切り裂く
粉雪舞い上がれ　吹雪に眩むほど
かざした剣のすべてを　埋めてしまう時まで

はらはら舞い踊る　ただただ積もりゆく
この世に生きた証を　風に語り継ぐ日まで
花びら舞い上がれ　目に映るすべてを
美しき幻想だと　胸に刻み込む日まで